シナリオ原稿

① リキとエルザの出会い
1912年、雨が降りしきるイギリス郊外の町並み。人の姿は無く、暗く淀んだ雰囲気。
その奥から力無く、ずぶ濡れで歩いている一匹のニホンオオカミ。弱っているのか足を引きずるように歩き、頭には致命傷となるような大きな傷。出血が酷く、血が止め処なく地面に滴る。
やがて石畳の地面の上に力尽きるように倒れる。瞳は半開きとなり、荒かった息も徐々に弱くなっていく。
同じ町中で何者かが雨の中を傘も差さず無言で歩いていく。その姿は子供。伏せた顔は頭巾で見えない。手には一本の笛。
子供は倒れているオオカミを見つけ、足を少し速める。オオカミは近づく足音に自らの死を悟ったかのように目を閉じる。
オオカミのすぐ側まで子供は近づき立ち止まる。
だが、何をする訳でも無く、ただ呆然としている。やるせなさで少し歪む子供の口元。
しばらくの時間の後、子供の手が動く。
子供は祈りを捧げるように笛を吹く。雨音が支配していた世界が子供が奏でる笛の音色で一変していく。オオカミの耳が子供が奏でる音楽に反応する。
音楽が一区切りついて演奏が途切れた瞬間、オオカミの瞳が強く開かれる。
オオカミの視点から笛を吹いていた少女の顔がここで始めて見える。
少女は寂しそうな目をしながらも、口は僅かであるものの笑みの形を作っていた。
互いの顔を見つめ合う二人を包み込むように、世界は再び雨音に支配されてゆく。

② 原作短編パート ~OPまで~
カーテンは閉じられ真っ暗な出木杉の部屋。壁掛けのプロジェクターには絶滅動物の資料の画像が映し出されている。出木杉は映写機と接続されたパソコンの前でひとり立っている。
出木杉「その高さは4メートルもあったというジャイアントモア。不思議の国のアリスにも登場したドードー。残念だけど、ぼくらはもう出会うことが出来ない。何故なら人間によって狩り尽くされてしまったからだ」
その話をソファーに座りながらじっと聞いているのび太、静香、ジャイアン、スネ夫。
出木杉「日本だってニホンオオカミやトキが絶滅したとされている。やはり人間の身勝手な行動が原因でね」
プロジェクターに映し出された動物達の画像は消え、宇宙に浮かぶ地球の画像に切り替わる。
出木杉「絶滅動物を通して地球について考えてみよう。それが、今年の夏休みの自由研究のテーマ。どうかな?」
のび太「いいじゃない!」
興奮した様子ののび太、ロマンに目を輝かせる静香。やや冷めた様子のスネ夫とジャイアン。
ジャイアン「どうもピンとこねえな。そのモアとかはもうずっと前に消えちまったんだろ? そんな動物で地球とか言われてもなー」
スネ夫「ぼくらとは遠い世界のお話みたいな……」
出木杉は頷く。
出木杉「その理屈はわかる。じゃあ、今度はこの動物を見て欲しい」
プロジェクターに映し出されたのは一匹の犬の写真。
出木杉「これは秋田犬だ。この秋田犬が絶滅しそうになったのを知っているかな?」
呆気にとられる出木杉以外のメンバー。
ジャイアン「犬が、絶滅?」
スネ夫「ペットは環境問題とか関係ないでしょ?」
出木杉「そう。秋田犬が絶滅しそうになったのは環境問題じゃない。答えは戦争だよ」
ジャイアン「え?」
出木杉「毛皮の材料にされたんだよ! 戦争中に飼われてた秋田犬は全部捕まった!」
ジャイアン「飼っているペットまで!?」
スネ夫「それはあまりに酷い!」
のび太「じゃ、じゃあ、その秋田犬が捕まったあとは……」
出木杉「もちろん、全て殺された」
息を飲む一同。
出木杉「動物達が人間の手によって消えるのがわからないなら、まず身近なペットから考えてみるといいんじゃないかな? きっと動物達の気持ちがわかるはずさ」
静香「でも、なんだか悲しくなっちゃった。日本でそんなことがあったなんて」
出木杉「はは。そんなに落ち込むことはないよ」
出木杉はプロジェクターを消し、カーテンを開ける。部屋に光りが差す。
出木杉「今も秋田犬が存在するのは、守ろうとした人たちもいるからだ。人間は動物を消すことも出来るけど、生かすことだって出来るはずだよ」
ジャイアン「そうだそうだ! おれだって動物を守るぞ!」
スネ夫「ぼくも!」
のび太「ぼくだって!」
静香「そうね!」
次々と立ち上がるメンバー。頷く出木杉。
出木杉「悲劇を繰り返さない為にも、ぼくたちは消えた動物のことを勉強するべきだよ」
一同「異議無し!」

家路へと走るのび太。
のび太「よーし、ぼくは自然を守るぞー。けものや鳥や虫や草木も!」
のび太が家にたどり着く。
のび太「ただいまー!」

ドラえもん「やろう! ぶっころしてやる!」
血走った目をしながら巨大なハンマーをのび太の部屋の中で振りかざすドラえもん。
のび太「どうしたの!?」
ドラえもん「ネズミが! ぼくのどら焼きをかじったんだ!」
のび太は慌ててドラえもんを抑えようとする。
のび太「やめろ! 君のせいでネズミが絶滅したらどうする!」
ドラえもん「ハァ? ネズミのせいでどら焼きが絶滅したらどうする!」
のび太「エ? エ? どら焼きが絶滅……?」
キョトンとした顔でのび太は考え込むが、ドラえもんの暴走は止まらない。
ドラえもん「さあさあ出てこいネズミども!! 一匹残らず退治してくれる!」
のび太「もう、いい加減にしてよ!」

のび太「ドラえも~ん!」

③ 原作短編パート ~OP以降~
のび太の部屋。
ドラえもんは息を切らしながらも、やや落ち着いた様子。のび太は、その横で安心したように冷や汗を流しながらも胸をなで下ろす。
のび太「ねえ、諦めようよ」
ドラえもん「いいや、諦めきれない! 待ってろよ……どら焼き」
ドラえもんが鼻息を荒くしながらポケットをゴソゴソと漁りだす。
ドラえもん「タイムホールとタイムトリモチ!」
ドラえもんが道具を取り出し、胡座をかいて真剣な目つきで機械のツマミを弄り出す。のび太はそれを何事か、と落ち着かない様子で見守る
ドラえもん「これは失われたモノを取り戻す道具だ。まあ見てなよ。ママがどら焼きを買ってきたのは昼過ぎのハズ……。よし、時刻を本日の昼頃にダイヤルセット! 座標を野比家の戸棚にロックオン! どら焼きをサーチスキャン!」
タイムホールの輪にノイズ混じりの映像が映り始め、やがて戸棚に閉まってあるどら焼きが鮮明に映し出される。
ドラえもん「ここですかさずトリモチを突っ込む!」
トリモチがドラえもんの手によってタイムホールの輪の中に突っ込まれ、すぐさまドラえもんが手を引くと、どら焼きがトリモチの先にくっついている。
ドラえもん「捕獲大成功!」
ドラえもんは満足げにどら焼きを食べ始める。
のび太「すごい! ねえ、ぼくにも使わせてよ」
ドラえもん「いいけど、何をするの?」
のび太「う~ん、そうだ! この前ママに捨てられた漫画をとりかえそう!」
のび太は機械を弄り出す。
のび太「時刻をおとといの朝にダイヤルセット! 座標をぼくのへやにロックオン! ぼくの机をサーチスキャン!」
タイムホールの輪には机の上にだらしなく置かれている漫画雑誌が映し出される。
のび太「よしよし、えいっ!」
のび太はトリモチをホールに突っ込み、漫画雑誌をすくい上げる。
のび太「捕獲成功! まったく、まだ読んでないページがあるのに……」
ドラえもん「だらしないから後悔することになるんだよ」
のび太「まあまあ。これでもっといろんなものをとりかえそうよ」
ここからポンポンと過去のモノをのび太は捕まえてくる。
のび太「この前割っちゃったお皿、捕獲成功! おつかいの途中で落としたお金も捕獲成功! ジャイアンに取られたプラモも捕獲成功! 買ったばかりの野球のグローブも捕獲大成功!」
部屋にどんどん取り返したモノが貯まってゆく。
のび太「あーはっはっは、ゆかいゆかい!」
ドラえもんは微妙に困惑した顔になる。
ドラえもん「おい、あまり下らない使い方をしないでよ。これはまじめな目的で作られた機械なんだ」
のび太「そうなの?」
ドラえもん「歴史の調査として使うものなの。例えば戦争で無くなった絵を取り戻すとかね」
のび太「戦争で無くなった……。待てよ?」
のび太は突如考え込む。そしてひらめいたように立ち上がる。
のび太「そうだ! ドラえもん! 絶滅した動物達をこの部屋に連れてこよう!」
ドラえもん「ナニ?」
のび太「これまでいなくなった絶滅動物を昔の世界から連れてきてさ、今度こそ大事に育てて増やすんだ! そうすれば、絶滅しなかったことになるじゃない!」
ドラえもん「それはきみらしくないすばらしい思いつきだぞ!」
のび太「いなくなったニホンアシカもたくさん増やそう!」
ドラえもん「ゴクラクインコやリョコウバトの群れが再び大空を舞う!」
のび太&ドラえもん「そしてモアとドードーが、ぼくらと友達になれるんだ!」
のび太「ねえ、早く連れてこよう!」
ドラえもん「よし、まずはモアからだ! 時刻を……500年前! 座標をニュージーランドにロックオン! モアをサーチスキャン!」
タイムホールの輪が再びノイズ混じりになり、ニュージーランドの光景がチカチカと切り替わっていく。
のび太「……見つからないね」
ドラえもん「ニュージーランドは広いからね」
のび太「でも根気よく探さなきゃ!」
ドラえもん「わかってる」
のび太は先ほど取り戻した漫画雑誌に手を伸ばす。
のび太「絶滅動物を救う為に頑張れ!」
ドラえもん「がんばる!」
のび太は眠くなったのかあくびをする。
のび太「ファ~、ねえ、まだぁ?」
ドラえもん「少しは手伝え!」
のび太「あ、あれは!?」 
何かに気付いたのび太は突然身を乗り出す。
タイムホールの輪に映る草原。その大地を猛スピードで駆け抜けるモアの姿が映し出される。
ドラえもん「モアだ!」
のび太「すっごく大きい!」
感激したように手を取り合って目を輝かせるドラえもんとのび太。
のび太「けど……ケガをしてるような」
ドラえもん「フラフラしてるね」
しばらく走ったあと、疲れたのかモアは立ち止まる。
ドラえもん「とにかく保護しないと。トリモチの準備はいいか?」
のび太「オッケー! ホールを寄せて!」
ドラえもん「よーし」
タイムホールとモアとの距離がゆっくりと縮まり、のび太が構えたトリモチがモアにくっつく。
のび太「よし、くっついた! ワァ!?」
その瞬間思い切りのび太の体がタイムホールの向こう側へと引っ張られ、すかさずドラえもんが手を貸す。
ドラえもん「大物だ! ひっぱるぞー! いっせーの!」
のび太とドラえもんが声に合わせて引っ張ると、見る者を圧倒する大きさのジャイアントモアがのび太の部屋に入り込む!
モア「ギァアン!」
モアが叫び、のび太を蹴りつけようとする。
のび太はとっさに床にあった新品の野球のグローブを拾って身を守る。モアのツメがグローブを真っ二つにする。その勢いでのび太の体がふすまに叩きつけられる。
のび太「ひえっ!」
ドラえもん「のび太くん!」
モアはうずくまるのび太をくちばしで拾い上げる。
ドラえもん「平和アンテナ!」
すかさずドラえもんがポケットから「平和アンテナ」を出し、スイッチを入れる。アンテナから電波が発信され、モアの動きが止まり、くちばしからのび太を離す。
ドラえもん「平和アンテナの平和電波は争いごとをストップさせることが出来る。のび太くん、大丈夫?」
のび太「うん……」
モア「……」
静かにしているモアを見つめるのび太。少し悲しい顔になる。
のび太「ぼくたちのことが怖かったのかな?」
ドラえもん「ま、仕方ないさ」
のび太「このケガも人間にやられたものなのかな?」
ドラえもん「かもね……」
その時、ドアの向こう側からのび太のママの声がする。
ママ「のびちゃん! おそうじするから開けなさい」
のび太「マ、ママ!」
駆け足でのび太は廊下に出る。
のび太「いいよ、掃除ならぼくがやるから」
のび太のいかにも怪しい様子にママは睨む。
ママ「……何か隠してるでしょ?」
のび太「なんにもないって!」
ママ「いいから見せなさい!」
止めようとするのび太を押しのけてママは部屋に入り込む!
ママ「……?」
ママはモアの股をくぐりぬけるような形になり、部屋の中にモアがいることに気付かない。
ドラえもん「エヘヘ……」
ママはドラえもんの不審な様子が気になりつつも部屋の異変に気付かない。床に落ちている皿に意識が集中しているのか視線を上げないことが幸いしている。
ママ「……そこのお皿、ちゃんと片付けなさい」
結局何もわからずにママは下へと戻っていった。
のび太&ドラえもん「ハーッ」
思わずドラえもんとのび太はため息をつく。
のび太「ヒヤヒヤしたーっ」
ドラえもん「怒鳴られちゃうところだったよ」
のび太「さ、気を取り直して、どんどん連れてこよう」
ドラえもん「そうだね!」
ふたりはタイムホールとトリモチの前に座る。
ドラえもん「次はリョコウバト」
ドラえもんはヒョイとリョコウバトを苦も無く捕まえる。
ドラえもん「ドードー鳥も!」
同様にヒョイと捕まえる。
ドラえもん「ゴクラクインコ!」
部屋に絶滅動物が所狭しと集まってゆくが、平和アンテナのおかげでおとなしくしている。
ドラえもん「次はニホンアシカか。トリモチじゃ水中の動物は捕まえられないんだ。ぼくが直接行ってくる!」
ドラえもんはタケコプターを取り出し、タイムホールの輪に飛びこんでいった。
のび太は感慨深げに絶滅動物達を眺める。
のび太「きみたち、本当はもう地球上にいないはずの動物なんだよな……。なんだか信じられない……」
のび太はモアを見る。モアの顔には切り傷があり、血がにじんでいる。のび太の顔が悲しげに歪む。
のび太「ちょっと待って!」
のび太は急いで一階に下りて、救急箱を持ってくる。
のび太「きみの傷、手当てしてあげるよ」
のび太はモアの顔にあるケガに消毒液で濡らせたガーゼを軽く押しつける。
のび太「酷いことをしたもんだよ。絶滅するまで誰も守ってやれなかったなんてさ。いじめられっこの気持ちは、ぼくにもわかるよ」
のび太はばんそこうを貼り、一通り終えたという顔をした。
のび太「これで、よし、と」
モアは何処か嬉しそうに眼を細めていた。
のび太「みんなにも見せてあげたいな。とりあえず、そこのきれいなゴクラクインコを」
のび太が口笛を吹くと、指先にインコが乗る。
のび太「じゃあ見せに行こう。他のきみたちはおとなしく待っているんだよ!」
のび太は機嫌良く外に出て空き地に向かう。
空き地には出木杉と静香ちゃんがいた。ノートと筆記用具、カメラなどを持っている。
出木杉「やあ、のび太くん。ぼくらはまず、この辺りの環境から調べているんだ」
のび太「へえ」
静香「そのインコ、ものすごく綺麗ね!」
のび太「まあね。ぼくになついちゃってさ」
突如、出木杉の顔が驚きの表情に変わる。
出木杉「の・の・のび太くん! それは、まさか……ゴクラクインコじゃないか!?」
のび太「ははは。おふろにつかって、ハァ~ゴクラクゴクラクって?」
出木杉「そんなんじゃなくって、楽園のように美しいという意味のインコだよ!」
その様子を遠くから見つめる男性。
出木杉「飼うのがとても難しいのに、たくさん人間に捕まったせいで絶滅したはずだ!」
焦る出木杉とは対照的に、のび太はしらばっくれたように余裕の笑みを浮かべている。
のび太「そーなのー? ははは」
男性「き、きみ! そのインコを見せてくれ!」
遠くで見つめていた男性がこちらに駆け寄ってくる。
のび太「あっ、あの……!」
そこで初めてまずいと思ったのかのび太はインコを背中に隠そうとするが、間に合わない。
男性「わしは動物学者です。確かにそれはゴクラクインコだ!」
出木杉「やっぱり!」
男性「きみはどこでそのインコを手に入れたんだ! これは大発見なんだぞ!」
のび太「え、えっと……、学校の裏山で飛んでて……」
男性「裏山! それは何処だい?」
出木杉「ぼくが案内します!」
学者と出木杉は一目散に走っていった。のび太は冷や汗を流す。事情が読み込めないといった感じの静香。
のび太「こまったことになったなあ」
静香「ねえ、そのインコ、本当はどこで?」
のび太「ついておいでよ。説明するから」
のび太の家に向かうのび太と静香。
のび太「ドラえも~ん!」
静香「ひっ!?」
部屋に入った瞬間、ドードーの姿に驚き、静香の顔が強ばる。しかし、ママ同様モアには気付かない。
のび太「大丈夫だよ、平和アンテナでおとなしくしてるから」
静香「そ、そう? あっ、お皿……」
そう言われても静香はとても落ち着けない様子で、ひとまず床の皿を拾い上げようとする。
モア「フーッ!」
モアの鼻息が静香にかかる。
静香「……え?」
静香は恐る恐る上を見上げると、巨大なモアが静香のことを見つめている。
静香「キャー!」
静香が思わず投げつけた皿が部屋の窓ガラスをぶち抜いて割られる。
静香「あっ!」
しまった、という顔を静香は浮かべる。
ママ「なあに! 今の音!」
のび太は全速力で下へ駆け下り、ママの元へ向かう。
のび太「な・な・なんでもないから!」
ママ「そんなわけないで……」
ジャイ「おーい、のび太ーっ!」
外からの声にのび太とママは動きを止める。
玄関先で焦った様子のジャイアンとスネ夫。
ジャイアン「テレビにお前が映ってるぞ!」
のび太「ええっ?」
テレビに映し出されるニュース番組を見る、のび太、ママ、ジャイアン、スネ夫。
テレビ番組のニュースキャスター「絶滅したはずのゴクラクインコが発見されたことについて、発見者したのは都内に住んでいる野比のび太くんであることがわかりました。調査チームは都内の小山を探索するとともに、発見者の……」
野比家の電話がけたたましく鳴り響く。
のび太「わぁ、ぼくはいないって言って!」
ジャイアン「どうなってんだよ!」
スネ夫「説明しろってば」
ママ「のび太!」
のび太は急いで二階に駆け上り、ジャイアンとスネ夫もそれに続く。ママは気になりつつも、電話へと向かう。
ジャイアン&スネ夫「うわぁ!」
絶滅動物で埋まっている部屋にジャイアンとスネ夫は驚くものの、同じ部屋に静香ちゃんがいるせいか、さほど慌てる様子はない。
家の外からテレビのニュースを見て集まった群衆の声が轟く。
群衆A「インコ見せてー!」
群衆B「写真撮らせて!」
群衆C「100万円で売ってくれ!」
その様子に絶望するのび太。
のび太「大変な騒ぎになっちゃったー! ドラえも~ん!」
タイムホールの輪からドラえもんがトリモチにアシカをくっつけて帰ってくる。
ドラえもん「やれやれ、やっと捕まえたー」
のび太「ドラえもん!」
ドラえもん「えーっ! 取り囲まれてるってー!」
のび太「どうしよう!」
ドラえもん「そうだ! その平和アンテナを出力最大にして、ヤジ馬を落ち着かせよう!」
のび太「そ、そうか。よーし! おとなしくなれー!」
ところが平和アンテナは無反応。
ドラえもん「ああっ、電池切れだ! スイッチ入れっぱなしにしたな!? あれほど節電しろって言ったのに!」
学者「失礼します!」
出木杉「のび太くん、いるんだろ!?」
遂に学者と出木杉を先頭に群衆が家の中へ入ってきた。顔が青ざめるのび太とドラえもん。
ドラえもん「ぼくが急いで動物の隠れ場所を探してくる! 絶対にここに入れるな! 動物たちを守り切れ!」
ドラえもんは素早くどこでもドアを出し、何処かへと消えた。
のび太は急いでドアを抑える。
ジャイアン「おれも手伝う!」
スネ夫「ぼくも!」
3人で必死にドアを抑える。やがて、向こう側から乱暴にノックされる。
学者「そのインコを渡すんだ!」
出木杉「開けるんだ! のび太くん!」
やがて向こう側から力尽くで押してくる。何十人という群衆が、のび太の部屋に向かって突入しようと凄まじい力て押しまくる!
のび太「ひぃっ!」
ジャイアン「やろう!」
スネ夫「もう抑えきれない!」
どこでもドアからドラえもんが飛び出す。
ドラえもん「用意出来たぞ! 急げ!」
ドードー、リョコウバト、アシカ、ゴクラクインコはどこでもドアを素早くくぐりぬけたが……。
静香「モアがドアに入らないわ!」
ドラえもん「スモールライトでなんとかしてくれ!」
ジャイアン「もうダメだ! ドアが破れるぞ!」
ドラえもん「ええい、「立体映写機」と「温泉ロープ」!」
ドラえもんが叫んだ瞬間、遂にドアが破れ群衆が突入するが……。
学者「……」
群衆は目が点になって立ち止まる。部屋の中は湯気が立ち上る温泉旅館の温泉場になっていたのだ。
そこには湯船につかる金髪の女性が……。
金髪の美女「ハァ~、ゴクラクゴクラク……」
その光景に思わずゴクッと学者は唾を飲み込む。
美女は学者のほうを振り向いた。

ドラえもん「うっふ~ん」
その正体は女装したドラえもんだった!
学者「し、失礼しました!!」
勘違いした群衆がドアの向こうへと慌てて戻る。
学者「……ン!? 今のは何だ!?」
再び部屋に入るが、部屋はのび太の部屋に戻り、既にもぬけの空だった。
学者「……?」
訳もわからず、唖然とするばかりの群衆達。そこへママがやってくる。
ママ「なあに! この匂い!」
学者「これは動物たちのふんやおしっこの匂いですね」
学者としての性分からか冷静に分析してしまう。
ママ「なんですって! 今すぐに掃除してください!」
学者「いや、あの、わしは……」
ママ「そこの割れたガラスも弁償してくださいね!」
学者「はいいっ!」
ママの迫力に圧倒され、学者は言うがままになっていた。

一方、どこでもドアで無人島に向かったドラえもん達。
ドラえもん「やれやれ……」
ドラえもんはメイクを落としながら崖に立つのび太達の元へ向かう。
一歩先に島へとやってきたのび太達は広がる岩だけの島の光景に目を奪われていた。
のび太「ここは一体……?」
ドラえもん「ぼくが作った島だよ。「マグマ探知機」と「強力岩トカシ」でね」
のび太「それじゃ、ここは動物達専用の島ってこと!?」
ドラえもん「そういうこと! みんなが自由にのびのびと暮らせるんだ!」
スネ夫「でも人間に見つからないかな?」
ドラえもん「船や飛行機が通るコースからううんと離れた場所だから大丈夫だよ!」
のび太「植物を植えて草原やジャングルを作ろう!」
ジャイアン「もっとたくさんの絶滅動物を連れてこようぜ!」
スネ夫「雨や風を凌ぐ洞窟なんかも欲しいね」
静香「お花も植えて虫やチョウも増やしたいわ」
ドラえもん「みんな、この地球の楽園作りに協力してほしい! 作業開始!」
一同「おーっ!」
一同は空気クレヨンで、空中に楽園の設計図を描く。
それを元にドラえもん達は楽園作りを進めていく……。

④ 島作りからエルザ上陸へ

夕陽が島を照らす。
ただの岩山でしか無かった島は、青々とした木々や草原に包まれ、美しい島と変わった。
百羽を超えるゴクラクインコの群れが空を舞っている。
木が、花が、蝶が、島を鮮やかに彩っていた。
のび太「何て素晴らしい眺めだろう」
静香「ほんとね!」
ジャイアン「ところでドラえもんは?」
スネ夫「なんか、いろいろと悩んでいるみたい」
のび太「……?」
ドラえもんは海を目前とした崖の上で分厚い辞典を片手にあぐらをかいて、コンピューターにデータを大量に入力しながら何やら考えているようだった。
ドラえもん「ふーっ……」
汗を流しながらため息の連続だ。
のび太は背後から近づく。
のび太「何をそんなに考えているのさ?」
ドラえもん「難しいんだよ。自然を作ることが」
のび太「なんで? こんなに立派な森や草原が出来たのに!」
ドラえもん「……木を増やせば、草原が消える。肉食の動物を増やせば、草食の動物が消える……」
のび太はそこまで考えていなかったと目を丸くする。
ドラえもん「人間が自然を守ろうとして、かえって状況を悪くなってしまったことはたくさんあるんだよ」
のび太「本当に難しいんだね」
ドラえもん「動物を一気に増やそうとするのは出来ないかもしれない」
のび太「じゃあ、どうするの?」
ドラえもん「ひとまず、おとなしい動物から増やすしかない。絶滅したバーバリライオンやカスピトラなんかはまた後で考えよう」
のび太「そっか……」
ドラえもんは一度ふうと大きく息を吐き、出していた道具を片付けた。
のび太とドラえもんは静香ちゃん達に合流するために、振り返って島の内部へと歩いていく。
ドラえもん「島を増やす必要があるかもしれないね……」
のび太「へえ」
ドラえもん達は知る由も無かった。
海の向こう、遠くに見える景色の中に、新たな「島」が見えていることに。

ドラえもん「それじゃ、帰るよ」
ドラえもん達5人はどこでもドアに集合していた。
のび太「うん」
5人が満足げに帰ろうとした時だ。
静香「あっ、あれ!」
静香が何かを発見し、草原の向こうを指差す。
こちらにやってくる2つのシルエット。
のび太「モアとドードーだ!」
すぐ側まで近づいてくるが、そこから何をするわけでもなく、ただ優しい瞳でのび太達を見守っている。
ドラえもん「見送りに来てくれたんだ」
静香「本当にお友達になれたのね」
のび太「明日も必ずくるからね!」
ドラえもん達は手を振りながら、どこでもドアの向こうへと消えていった。

家の外で手を振り、静香、ジャイアン、スネ夫は家路に就いた。
場面は変わってテレビのニュースの画面。
レポーター「インコは発見出来ず、東京の真ん中で絶滅した動物が発見されるというのは有り得ないとして、結局見間違えだろうという結論に至り……」
ママ「あの大騒ぎはなんだったのかしら?」
ママは呆れたように呟いた。
のび太「まあまあ」
ママ「それより、のびちゃん。宿題はやってるの?」
のび太「ああ、やってるとも! ぼくらがやらなくちゃいけない宿題をね」
ママ「ふぅん……」
自信満々で答えるのび太とは対照的に、ママはそれならいいのよ、とばかりに再びテレビに視線を戻した。

すっかり夜になり、電灯の明かりに包まれたのび太の部屋。
ドラえもん「それじゃドラミ、頼んだよ」
ドラミ「任せといて、お兄ちゃん!」
ドラえもんはタイム電話の電源を切った。
のび太「何を話してたの?」
ドラえもん「透明バリアをたくさん用意してほしいって頼んでたんだ」
のび太「なにそれ?」
ドラえもん「島を見えなくする道具だよ。これを島のまわりに置くことで全体を透明にするんだ」
のび太「なるほど。でも、みんなにも見せてあげたいよ。絶滅した動物がまだ生き残ってる光景をね」
ドラえもん「数を増やしたら、少しずつ世界各地に放そうと思う。ただ、それも簡単じゃないさ。佐渡島のトキの繁殖だって30年以上もかかっているんだよ」
のび太「自然を復活させようとしているのは、ぼくたちだけじゃないんだね」
ドラえもん「そういうこと。さ、寝よう」
電気が消え、のび太とドラえもんは寝床についた。

夜更けのドラえもん達が作った無人島。
海から無数の光る目が島に上陸してくる。
月明かりに浮かび上がる巨大なオオカミのシルエットが、凄まじい遠吠えで島全体を轟かせた。

朝、のび太の家の前。
ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫が集う。
スネ夫「見てよ、これ。楽園の旗を作ってきた」
スネ夫は青い旗を皆に見せびらかす。
ジャイアン「かっこいいじゃん!」
ドラえもん「早速フエルミラーで増やそうか」
のび太「そうなると、楽園に名前が必要じゃない?」
ジャイアン「おれたちの名前からジ、ノ、シ、ス、ド、ジノシスドってのはどうだ?」
のび太「えー、なんでジャイアンが一番最初なのさ?」
ジャイアン「もんくあんなら『ジャイアンさま動物王国』にすんぞ!」
のび太「わかったよ、ジノシスドでいいよもう」
静香「おまたせー」
遅れてきた静香と合流し、5人はどこでもドアが置かれたのび太の部屋に向かう。
ジャイアン「それじゃジャイアン動物王国に出発だ!」
のび太「ジノシスドじゃなかったの!?」
ジャイアン「どっちにしろ、おれさまが王様だ!」
ドラえもん「やれやれ……」

昨日のモアとドードーに見送られた草原にどこでもドアの出口が開かれる。
5人はドアをくぐり抜けて、島へと上陸する。ドラえもんはどこでもドアをポケットにしまう。
ドラえもん「今日は虫を中心に増やそう。みみずだって立派な自然の一部だからね」
その5人に猛スピードで近づく、鋭い牙を持ったいくつもの影。
のび太「よーし、それじゃぼくの庭を掘り返して……」
ドラえもん「ン……!?」
異変を感じ取ったドラえもんが耳を澄ませる。続いてのび太達が近づいてくる気配に身構える。
のび太「なんだ……?」
森の茂みから勢いよく飛び出したのは、オオカミの集団だった。一目散に駆け寄ってくる。
ジャイアン「あれ? オオカミなんて連れてきたっけか?」
オオカミたちは牙をむき出しにして、明らかに敵意を持って駆け寄ってきた。
ドラえもん「まずい!」
焦ったドラえもんはポケットから銃の形をした道具を取り出し、オオカミに向ける。
ドラえもん「止まってくれえ!」
しかし、オオカミたちは立ち止まることなく、ドラえもんたちに飛び掛かってくる。
静香「きゃああっ!」
非常事態だと気付いたドラえもん以外のメンバーも顔が青ざめる。
ドラえもんは仕方なく銃の引き金を引くと、銃口から光線が発射され、オオカミたちの一体に当たり、オオカミはギャインと悲鳴を上げて倒れる。
その様子にオオカミたちは恐れを成して一歩引く。
のび太「こ、殺しちゃったの?」
ドラえもん「ショックガンだよ。ケガは絶対にしてない」
ドラえもんの言葉を裏付けるように、倒れたオオカミは立ち上がる。
ドラえもん「このオオカミたちは一体……?」
緊張した空気の中で両者はにらみ合う。
その時、ドン、ドンと地響きが轟く。まるで巨大な何かが近づいてくるかのように。森の木々からたくさんの鳥が空へと逃げてゆく。
ただ事ではない気配に、目が点になるドラえもん達。
のび太「な、なんだ……!?」
そして、木々の間から巨大なオオカミが姿を現した。
ドラえもん「な、なんだあ!!」
その大きさに圧倒され、身動きが取れない5人。
オオカミ「アオーン!」
ドラえもんに撃たれたオオカミが、巨大なオオカミに何か話している。
巨大なオオカミ「……」
それを聞いた巨大なオオカミは睨むというよりは、様子見という感じでドラえもん達を眺めている。
ジャイアン「おい、あれはなんの絶滅動物だよ!?」
ドラえもん「サーベルタイガー? いや、あんなにデカいのはいないはず……」
巨大オオカミ「おい、お前達は日本人か?」
ドラえもん「えっ」
のび太「今誰か喋った?」
何が起きたのかわからず混乱する5人。
巨大オオカミ「私だ」
ドラえもん「!?」
巨大オオカミ「私が日本語で話している!」
ドラえもん「しゃべったぞ!!」
巨大オオカミ「私は日本生まれなのでな、日本語は理解出来る」
ドラえもん「そ、そうなんだ……」
のび太「でも、なんで喋れるの?」
巨大オオカミ「喋られるように……、なったのだ」
巨大オオカミは振り返る。
巨大オオカミ「この島に動物を連れてきたのはお前達だな? 話がある。ついてこい」
そう言ってオオカミは島の外側へと歩いて向かう。
のび太「ど、どうしよう?」
ドラえもん「すっかり囲まれているんだ。ここは逆らわない方が良さそうだ」
スネ夫「けど、どこに連れて行くつもりだ?」
為すがままに、オオカミの後を付いていくドラえもん達。
その様子を遠目から、森林に隠れるようにモアとドードーが見守っていた。

⑤ エルザの島

昨日、ドラえもんがあぐらをかいていた崖の側まで歩かされた。
のび太「あ、あれ!」
ドラえもんたちが作った島のそばに、更に別の島がすぐ側までやってきていた。それはドラえもんが作った島より大きい。
ジャイアン「なんだありゃ? ドラえもんがまた作ったのか?」
ドラえもん「ぼ、ぼくは知らないよ?」
巨大オオカミ「あの島は、我々の船だ」
ドラえもん「船!?」
巨大オオカミ「島のように見えるそれは、水に浮かぶ大きな水草だ。」
ドラえもん「水草だって!?」
巨大オオカミ「水底に根が付いていない浮遊性の水草だ。葉の浮き袋が成長を続け、植物や動物達が暮らせる島となったのだ」
唖然とするドラえもん、静香、スネ夫。
しかし、のび太とジャイアンにはよくわかっていない。
のび太「ねえ、どういうことなの?」
ジャイアン「でっかいヒヤシンスみたいなもんと考えりゃいいのか?」
のび太「ああ、水だけで育てられる花といっしょってことだね」
巨大オオカミ「まあそんなところだ」
スネ夫「いや、そんなバカな……」
のび太とジャイアンを除く一同は疑問に思いながらも、島の形をした「船」へと歩く。島には上陸するためのはしごがかけられていた。
島は本当に一見ただの島に見える程に違和感は無い。島にはライオンの紋章が描かれた赤い旗がいくつ掲げられている。
ドラえもん「本当に普通の島みたいだ」
アホウドリの群れが、空を埋め尽くすような数で飛んでいる。
ドラえもん「すごいアホウドリの数だ」
のび太「何百万っているんじゃない?」
スネ夫が何やら考え始める。
スネ夫「このアホウドリの数、そして鳥のフンで出来たリン鉱石の岩、背の低い木……」
何か気付いたスネ夫が震え出す。
スネ夫「これは、まさか、中ノ鳥島!?」
それを横目で巨大オオカミは見る。
巨大オオカミ「……ガンジス島と我々は呼んでいる」
スネ夫「やっぱり! 1907年に日本人が太平洋沖で発見して、上陸もしたという島なんだけど、それ以来2度と発見出来なかったという幻の幽霊島!」
ジャイアン「幽霊島? 本当にそんなことがあったのか?」
スネ夫「当時の地図にも、ちゃんと載ってたんだよ! 今はもう無いけど」
静香「それがこの島なの? 信じられないわ……」
ドラえもん「島じゃなくて移動する水草だから2度と発見出来なかったんだね」
巨大オオカミは人間達の話に耳を傾けながらも、静かに前を歩いて行く。
やがて石畳の道が現れ、高さ30メートルはあろうかという階段の先に神殿のような白く大きな建物が現れる。建物は草木の蔓が絡みついており遺跡のような佇まいを見せている。
ドラえもん「遺跡……?」
巨大オオカミ「いや、我々が作った物だ」
巨大オオカミと5人は中に入る。それまでドラえもんたちを囲んでいたオオカミたちは下がっていく。
神殿の中は朽ち果てたように空いた外側から光が差し込み、静寂な空気に包まれている。
ローマ神殿のようなアーチ型の建築形式ではなく、サクラダファミリアのようにどこか自然を感じさせる放射線状の建築形式となっている。
その奥には巨大な王座が存在していた。
そこには一人、赤い服を着た人間が座っている。
のび太「あれは……?」
5人の視線が、その姿に集中する。
その姿を把握した瞬間、5人の顔が驚きの形になる。
赤いコートに金髪、それは明らかに人間だった。いや、人間なのはわかっていたが、何より驚いたのは……。
ドラえもん「子供だ!」
のび太「人間の子供だよ!」
ジャイアン「オオカミにつかまったんだ!」
スネ夫「助けよう!」
リキ「離れろ!」
ジャイアンとスネ夫が女の子に走りよろうとした瞬間、巨大オオカミが身震いするような咆哮を上げる。ドラえもん達は思わず足を止める。
巨大オオカミ「その娘の名は、エルザ。我々の仲間だ!」
ドラえもん&のび太「エーッ!? この女の子が!?」
エルザ「……」
エルザと呼ばれた女の子は、ドラえもん達をじっと睨み付けるが、何も言わない。
巨大オオカミ「私の名前はリキ。かつて、ニホンオオカミだったものだ」
スネ夫「ニホンオオカミだって!? 絶滅したはずだろ!?」
ジャイアン「それに、お前のようなデカいオオカミがいるか!」
リキ「……フン、全てを説明する必要はない」
ジャイアン「な、なんだと!?」
リキ「結論から先に話そう。我々は人間達に復讐しようと考えている。絶滅させようとした人間に戦いを挑む!」
ドラえもんたち「ええーっ!?」
リキ「この島に住む、全ての絶滅動物。そして、お前達が作った島の絶滅動物。その全員で、総攻撃をかけるのだ!!」
ドラえもん「ぼくたちの島の動物まで!?」
のび太「そんな勝手は許さないぞ!」
リキ「既にお前達の動物には話をしてある。我々と共に、人間達に復讐しようとな!」
ジャイアン「おれたちが助けた動物達が、お前達の味方になるもんか!」
リキ「さあ、それはどうかな?」
ドラえもん達は不敵な笑みを浮かべるリキの姿に息をのむ。
だが、スネ夫はここで一歩踏み出る。
スネ夫「そもそも、動物達が人間に戦いを挑んだ所で、勝ち目なんて無いじゃないか!」
リキ「……ああ、そうかもしれないな」
ジャイアン「じゃあ、無駄なことはやめればいいじゃんか!」
エルザ「そういうわけにはいかない!」
突如王座から立ち上がり、口を発したエルザにドラえもん達は動揺する。
エルザ「人間に復讐するために、100年の月日をかけて待ち続けた。我々、赤の旅団は人間に復讐する為に集いし同志なのだ!」
のび太「……なんで? キミは人間じゃないの!?」
エルザ「わたしは、もう、100年間この姿だ。人間じゃない」
のび太「そんな……」
ドラえもん「君たちの正体が何であれ、人間に復讐することなんてさせないぞ!」
リキ「ならばどうする?」
ドラえもん「ここの動物達は全員ぼくらの島に移住してもらう!」
ジャイアン「言うこと聞かなければ、ギッタギタにしてやんぞ!」
リキ「面白い! やってもらおうか!」
リキは一度咆哮を上げると、王座の影からトラとライオンの姿が現れた。2匹ともリキほどではないが、かなりの大きさだ。鋭い目つきでドラえもん達を睨み付ける。
のび太「バーバリライオンとカスピトラだ!」
スネ夫「ぼくたち食べられちゃうよ!」
ドラえもん「ショックガン!」
ドラえもんはすぐさまポケットに手を突っ込み、ショックガンを引き抜く。
ドラえもん「さあ、おとなしくし……えっ!?」
ドラえもん達の頭上から、真っ黒い塊が急降下し、ショックガンを掴んで飛び去った。
それは巨大なコウモリだった。翼を広げた姿は2メートルはあり、のび太達の背丈を優に超える大きさだった。
あっという間の出来事で、ドラえもんは声も出ない。
リキ「彼はグアムオオコウモリ。人間に食べ尽くされ、絶滅した。さあ、今度はお前達が食べられる番だ!」
スネ夫「ひいっ!」
5人の顔が更に青ざめる。バーバリライオンとカスピトラはゆっくりと近づいてくる。
のび太「なんとかしてよ、ドラえもん!」
ドラえもん「えーと! ええっと!!」
ポケットから大量に役に立たなそうな道具が飛び出していく。
ドラえもん「出た! 『ももたろう印のきびだんご!』」
しかし、その手には導火線に火が付いた巨大な爆弾が!
ドラえもん「ああっ! これじゃなーーいっ!?」
リキ「なっ!?」
のび太「ちょっ……!?」
爆弾は本体に火が届き、神殿内部は轟音と共に真っ白な光に包まれ、島全体まで煙と共に衝撃波が広がった。
……だが、島の一切に損傷は無かった。
煙が濛々と立ち上る神殿内部からドラえもん達が走って脱出してきた。
のび太「ゲホッ、ゲホッ! 一体どうなってんのさ!?」
ドラえもん「『こけおどし爆弾』だよ。光と音だけのこけおどしさ」
ジャイアン「とにかく、一度逃げるぞ! どこでもドアを出せ!」
ドラえもん「オッケー! 『どこでもドア』! さあっ逃げ……っ」
ドラえもん達がどこでもドアを潜り抜けようとした瞬間、神殿内部からエルザを背に乗せたリキが猛スピードで飛び出し、どこでもドアを踏みつけ、粉々に粉砕した!
ドラえもん「わぁっ!」
リキ「逃がすか!」
続いてカスピトラとバーバリライオン、背後には駆けつけた無数の絶滅したオオカミ、上空には空を埋め尽くす数のアホウドリ!
のび太「完全に囲まれてる!」
スネ夫「食べられるの嫌だぁ!」
牙を剥いたオオカミがじりじりと歩み寄る。
絶体絶命の緊張感の中、ドドッドドッ! と何かの足音が近づいてくる。
リキ「んっ!?」
オオカミ達は振り向き、その足音に対してうなり声を上げる。
のび太「何かが来る!」
動物が一匹、石畳の階段を凄まじい勢いで駆け上ってきた。
オオカミ達の囲みを大ジャンプで飛び越えて、のび太達の目の前までやってきたのは……。
のび太「モア君!」
モア「ギャアン!」
のび太が助けたモアが、助ける為に駆けつけてきたのだ。その大きさにトラ、ライオン、オオカミ達も若干焦りの色を見せる。
モアはのび太達を庇うように目の前に立つ。
その後、息を切らしながらドードーが、空からはゴクラクインコとリョコウバトもやってきた。
ドラえもん「みんな来てくれたんだ」
リキは鼻からため息をはき出す。
リキ「どうやら、理解してもらえなかったようだ……」
オオカミ達はドードーやモアに対しても敵意の目を向ける。
リキ「待て、我々と同じ、絶滅動物達だ。殺してしまえば、それまでだ」
オオカミ達はうなり声を上げることを止める。
リキ「……おい、そこの青いの。お前に話がある」
視線がドラえもんに集中する。
ドラえもん「ぼくに?」
リキ「ああ、後の人間達は去れ。そこの動物達を含めてな」
のび太「なっ、ドラえもんを置いていくことなんて!」
すかさず、ドラえもんはのび太に対して抑えるように手を伸ばす。
ドラえもん「いいだろう。ぼくは残るから、他のみんなはぼくらの島まで無事に帰せ!」
リキ「もちろんだ。さあ、他の人間達はこの島から立ち去れ!」
オオカミ達はドラえもん以外の人間達に歩み寄り、再び牙を向ける。
のび太「ドラえも~ん!」
ジャイアン「おい、とにかくここは引くぞ!」
のび太「でも!」
静香「大丈夫よ、ドラちゃんならきっとなんとかしてくれるわ」
のび太「くっ……」
のび太は涙を流しながらも、仕方なくドラえもん達に背を向けて楽園へと歩き出した。モアやドードー達も力無く帰って行く。
エルザ「どうするつもり?」
エルザは気にくわないという表情をしながらリキに耳打ちする。
リキ「あの人間達は動物を助ける為に島を作ったんだ。簡単に殺す訳にもいかないだろう」
エルザ「でも、それじゃ復讐が……」
リキ「……」
リキは瞳を閉じ、歯を強く噛みしめた。何か自分の内の中で葛藤しているかのように。
ドラえもんはリキのその表情を見逃さなかった。
リキ「ついてこい」
ドラえもん「ああ」
神殿内部へとリキとドラえもんは入ってゆく。

⑥ 対峙するドラえもんとリキ
楽園の島で、ドラえもんを除く4人は話し合っていた。
スネ夫「やっぱりあの島ごと沈めるべきだよ! あんなヤツが暴れ回ったら、何百人も食べられちゃう!」
静香「動物だけじゃなくて、女の子までいたわ! 全部殺しちゃうつもり!?」
スネ夫「100年も生きてるって、人間じゃないよ!」
静香「そう思い込んでいるかもしれないじゃない」
ジャイアン「あんなにデカいオオカミもいたし、マジかもしんないぜ……」
3人がまとまりも無く騒ぎ立てている場から少し離れたのび太は、モアとドードーの側で静かに語りかけていた。
のび太「君たちが来てくれなかったら、ぼくらはもうダメだったかもしれない。本当にありがとう」
モアとドードーは無言で頷くような素振りを見せている。
のび太「体……震えてるね。あの派手な爆弾のせいかな? 怖がらせて本当に悪かったよ」
しかし、そう言っているのび太自身も不安げな表情に変わっていく。
のび太「……ドラえもん、大丈夫かな?」
自分の体も震えているのをごまかすように、のび太は膝を抱え、顔を足に埋めるのだった。

神殿内部。
エルザを乗せたリキは王座の前で座り、ドラえもんと対峙する。
リキ「なるほど、あの動物達は過去の世界から連れてきたというのか」
ドラえもん「ぼくは22世紀からやってきたネコ型ロボットだからね。出来ないことはないんだ」
リキ「フン」
リキは少しおかしそうに笑った。エルザは口を挟む様子は無いものの、訝しげに二人の話を聞いている。
ドラえもん「あなたに提案があります。ぼくは島全体を透明化出来る道具を持ってます。この『透明バリア』です」
ドラえもんは透明バリアを取り出すと実演するかのように透明になってみせた。
リキ「ほう?」
そしてドラえもんは再び姿を現す。
ドラえもん「この道具さえあれば、完全に発見されることは無くなります」
リキ「確かにそうだろうな」
ドラえもん「なので、あなたがたが人間に復讐しようとしない限り、安全は保障します!」
リキ「……」
ドラえもん「さっきも言いましたが、人間の力は強力で絶対に敵わないんですよ!?」
リキ「……」
ドラえもん「あなたはやっぱり悩んでいる……」
ドラえもんの言葉を遮って、エルザがあざ笑うかのように口を挟む。
エルザ「敵わないだと? わたしたちには武器があるんだ!」
リキ「エルザ……」
ドラえもん「武器?」
エルザ「それは、この島そのものだ! 島の殆どがリン鉱石で出来ている! つまり、火薬そのものだ。この島もろとも爆発させる!」
ドラえもん「なっ、なんだってー!?」
エルザ「我々の爆弾はお前が使ったようなこけおどしじゃない。人間の住みかで大爆発を起こし、メチャクチャにしてやるのだ!」
ドラえもん「そ、そんなことをしたら、あなたがたも死んでしまうじゃないか!」
エルザ「構うものか。もともと我々は人間に見捨てられたのだから。そうよね? リキ」
リキ「あ、ああ……」
リキは若干トーンが落ちていることにエルザは気付かなかった。
エルザ「知っているか? お前達の住む日本の水草は、既に40パーセント以上が絶滅の危機にある! 復讐を誓うのは動物だけではない、この島の植物も望んでいるのだ!」
エルザは笛を高らかに掲げる。
エルザ「この笛の音は奇跡を起こす! 私は100年間姿を変えずに生き続け、リキは大きな力を身につけた! 全ては人間に復讐したいという想いからだ!」
ドラえもん「……バ、バカな!」
信じられない、という様子でドラえもんの口が開く。
エルザ「やっぱり、理解してくれないみたいね。リキ、こいつを踏み潰して!」
ドラえもんは冷や汗を流しながらポケットに手を突っ込む。しかし、何の道具を出せばいいのかわからない。
リキ「……」
エルザの言葉がまるで聞こえなかったように、リキは動こうとしない。
エルザ「リキ……?」
リキはゆっくりと口を開いた。
リキ「おい、ドラえもん。一度お前達の島に戻れ」
その言葉にドラえもんもエルザも驚く。
エルザ「なっ!?」
ドラえもん「えっ!?」
リキ「そして、人間の子供を連れて、お前達が住んでいた世界に戻れ。この島のことは誰にも喋るな」
エルザ「何を言っているの!? ここで帰してしまったら……!」
リキ「エルザ、ここは私に任せてくれ」
エルザ「でも……」
エルザはそれでも何か言いたげだったが、仕方なく口を閉じる。
ドラえもん「それじゃ、一度島に戻ります」
ドラえもんは神殿の出口へと振り向く。
ドラえもん「だけど、その後の事は自由にやらせてもらう!」
リキ「勝手にしろ」
リキはほくそ笑む。
エルザは納得いかないようにリキを横目で見つめるのだった。

⑦ 攻め寄せるエルザ達
のび太達「エーッ! 島を爆発させるだって!?」
ドラえもんが無事にのび太達の元に戻って一安心したのも束の間、エルザたちの計画を聞かされて一同は驚く。
のび太「じゃあ、あの女の子は本当に100年以上も生きてるっていうの!?」
ドラえもん「間違いないと思う」
スネ夫「でも笛の音だけで100年間も生きたり、オオカミがでっかくなったりする?」
静香「でも聞いたことがあるわ。植物に音楽を聞かせると育ちが良くなるって!」
ジャイアン「なんでだよ。植物には耳がないじゃんか」
静香「音楽の音波が、タンパク質を合成させるのよ!」
ドラえもん「研究が進めば、人間の医学にも応用出来るかもしれないらしいね。音楽を聞くだけでケガが早く治ったり、病気が治ったりする日も来るかもしれないよ」
ジャイアン「そんじゃ、この島の植物にはおれさまの愛の調べを毎日聞かせてやろう!」
スネ夫「かえって枯れちゃうんじゃないの?」
ジャイアン「なんだと!?」
ドラえもん「きっと、あの子とあの笛という組み合わせが、奇跡を起こしているんだと思う」
のび太「どうするの? 人間の世界をメチャクチャにされる!」
ドラえもん「うーん」
ドラえもんは汗を流して考え込む。
突如、モアが海沿いに眼を向け「ギャアーン!」と叫んだ。
のび太「な、なんだ?」
のび太達もモアが見ている方向へ駆け寄る。
のび太達「う、うわぁ……!!」
海岸線には、向こうの島からやってきたたくさんのオオカミを始めとする絶滅動物がギッシリと押し寄せていた。
その中で一際大きい猛獣、バーバリライオンにエルザは乗っていた。
エルザ「リキの言う事なんて聞いてられない! 今すぐにこの島を我々が乗っ取るのよ!」
それに応えるように島に上陸した猛獣たちは雄叫びを上げる。
その様子をエルザの島からリキは眺めていた。
リキ「エルザ……」
何かを決心したように、リキは背を向け、その場を去った。
ドラえもん達は焦っていた。
スネ夫「どどど、どうしよう!?」
ドラえもん「こうなったら、思い切って立ち向かうぞ!」
ドラえもんはポケットから空気砲とショックガンと名刀電光丸を取り出し、空気砲とショックガンをジャイアンとスネ夫に、名刀電光丸をのび太に渡す。ドラえもん自身も空気砲を腕に装備した。
ジャイアン「よーっし、やったろうじゃねえか!」
スネ夫「ううう……や、やるぞ!」
のび太「……」
本当にこれでいいのか、名刀電光丸の輝きを見ながら、のび太は戸惑う
ジャイアンとスネ夫が、迫り来る大軍に向かって銃口を向ける。
ドラえもん「狙え!」
モア「ギャン!」
それを見たモアは突然ジャイアンとスネ夫から、空気砲とショックガンをくちばしで取り上げた。ドードーはドラえもんから空気砲を奪い、続いてのび太に向かおうとする。
のび太「う……」
何かを理解したように、悲しげにのび太が電光丸を放り捨てたのを見ると、ドードーはモアの元へと駆け寄った。
しばらくは突然のことに呆然としていたジャイアンだが、当然モア達に激怒する。
ジャイアン「な、何をするんだ!? てめえ!」
スネ夫「ぼくらのことを裏切ったのかな!?」
ジャイアンとスネ夫に睨まれ、モアは顔を横に振るう。そのモアにドードー鳥やリョコウバトも集っている。
動物達は切なげな瞳で、何かを訴えている。
のび太「ち、ちがうよ!」
のび太はジャイアンとスネ夫に駆け寄る。
のび太「銃と刃物が怖いんだよ。ずっと人間にそれで狙われてたから!」
ジャイアン「うっ……」
ジャイアンとスネ夫は、その発想は無かったらしく、のび太の必死な様相にたじろぐ。
のび太「……それに、ぼくらが動物たちに銃を向けたら、絶滅させた人間達と変わらないじゃないか」
スネ夫「そ、そりゃあそうかもしれないけど、大軍がそこまで来ているんだぞ!」
既に地面を轟かせるほどの大軍が、もうすぐ側まで近付いている。
のび太「せめて、銃、刃物以外の道具ってないの!? ドラえもん!」
必死な様相ののび太と、焦っているスネ夫とジャイアン、そして、瞳で訴え続けるモア達の視線が集まり、ドラえもんは困ってしまう。
ドラえもん「銃と刃物以外というと……瞬間接着銃もダメだろ? ころばし屋、おもちゃの兵隊もダメか。あとは、あとは……!」
ドラえもんは困った様子でポケットをガサゴソと漁る。
スネ夫「ワッ、来たーっ!!」
猛獣たちがドラえもん達の目前まで迫ってきていた。
エルザ「いたぞ! 人間達を喰らい尽くせ!」
オオカミたちはのび太達に向かってくる。
ジャイアン「やろう! オオカミに人間がなめられてたまるかーっ!」
ジャイアンはひとりで素手のまま飛び出してしまった!
スネ夫「ジャイアーンっ!」
ドラえもん「ジャイアン! 受け取れっ!」
ドラえもんはジャイアンに向かって手袋を投げつける。
ドラえもん「『スーパー手袋』だ!」
ジャイアン「よーしっ!」
だが、ジャイアンが手袋をはめている途中で、たくさんのオオカミの群れに押さえ込まれてしまった!
ジャイアン「うおっ!?」
のび太「ジャ、ジャイアン!」
真っ青な顔で、言葉が詰まるのび太達。
しかし、オオカミ達は次の瞬間、立ち上がったジャイアンによって吹っ飛ばされていた!
エルザ「何っ!?」
エルザは予想外の事に目が点になる。
ジャイアン「どんなもんだ!!」
ドラえもん達「やったぜジャイアン!!」
ドラえもん「さあ、のび太くん。君も暴れてこいっ!」
のび太「うん!」
のび太は手袋をはめ、新たに靴を履いている。
ドラえもん「パワー手袋といなずまソックスだ! マシンガンのようなゲンコツの雨を降らせてこいっ!!」
のび太「よおし!」
のび太は意気揚々と猛獣たちの群れに、自ら猛スピードで突っ込んでいく。
エルザ「オーロックス! あいつを止めて!」
オーロックス「モオーッ!!」
鼻息を荒くしたバッファローやバイソンよりも巨大な牛、オーロックスが、突っ込んでくるのび太に対して体当たりする準備をするかのように、後ろ足を蹴り始める。
スネ夫「オーロックス!? 人でも獣でも容赦なく串刺しにした絶滅動物だぞ!?」
ドラえもん「大丈夫!」
オーロックスは、一気にのび太に突撃する!  鋭い角が、のび太を襲う!
のび太「チェストー!」
のび太はそれを真正面から必殺のパンチを決めた!
オーロックスはそのまま動かなくなり、眼を回しながら倒れた。
オーロックス「モォ~」
のび太「ホアチャーッ!」
次々と襲ってくる、カムチャッカオオヒグマやアラビアオリックスなどをのび太はパンチでなぎ倒していく。ジャイアンもフクロオオカミ、フォークランドオオカミたちを投げ飛ばしていく!
ドラえもん達「いいぞー! ジャイアーン、のび太ーっ!」
エルザ「こ、こんなことって……!」
呆気なく勝負が付くだろうと思っていたエルザは狼狽えた。既に大軍の半分が眼を回して倒れている。残りの猛獣たちも恐れを成して、のび太達に近付く事が出来ない。
ジャイアン「人間の強さがわかったかよ!」
のび太「お願い! もう人間に復讐なんてやめてくれ!」
エルザ「くっ……! カスピトラ! バーバリライオン!!」
エルザを乗せていたバーバリライオンとその横のカスピトラが、それに応えるように咆哮する。エルザはバーバリライオンから飛び降ると、バーバリライオンとカスピトラはのび太とジャイアンに対峙するように前に出る。
ジャイアン「来るか!?」
ジャイアンとのび太は緊迫した顔で構える。
両者じりじりと近付きながらにらみ合う。
緊張した空気が、最高潮に達し、エルザが突撃命令をかけようとした瞬間!
リキ「ウォオーーーン!!」
エルザ「えっ!?」
のび太「ん?」
遠くからリキが遠吠えを始めている。
のび太「何だ?」
エルザ「……?」
エルザもリキの遠吠えの意味が分からない。
その後、リキがいる島から、何かが爆発したようなドン! という音が轟いた。島の方角から煙が上っている。
バーバリライオンとカスピトラはのび太達に背を向け、急いで島へと走ってゆく。
エルザ「リキ、私がいないのに……!」
エルザも焦った様子で島へ向かう。残っていた大軍も一緒に走る。
ジャイアン「何だってんだ?」
のび太「行こう!」
のび太を先頭に、ドラえもん達もエルザの後を追う。
エルザの島は、白い煙が続々と立ち上っている。
その島に、バーバリライオンとカスピトラを先頭に上陸し、それを追うようにオオカミや猛獣達が上陸してゆく。
エルザ「ハアハア……」
エルザは見かけは6~7歳くらいだが、その見かけよりもずっと早く走ることが出来るものの、猛獣たちに付いていくことは流石に出来ず遅れるように島へと向かう。
リキ「エルザ!!」
エルザが島に上陸しようとした時、鬼気迫る顔をしたリキに止められた。
エルザは動揺したように足を止める。
エルザ「リ、リキ!? 私が居ないのに、燃料を点火させるなんて……!」
リキ「エルザ……お前はここに残れ!」
エルザ「ええっ!?」
リキ「お前は、あの人間達と一緒に、人間の世界に戻るんだ。人間への復讐は、我々だけで行う!」
エルザ「ど、どうして!? ずっと私たちは一緒だったのに!!」
リキ「お前は、死ぬな。……さよならだ、エルザ!」
リキがそう言うと、エルザの島が轟音を立てながらゆっくりと動き出す。
エルザ「そ、そんな……どうして……!?」
エルザは力無く、膝を付いた。
遅れてやってきたドラえもん達は、その様子を走りながら眺めていた。
スネ夫「な、何だ? 仲間割れ?」
静香「あの子、置いていかれちゃったのかしら?」
ドラえもん「ハッ! それどころじゃない!! あの島は、人間の住んでる所で爆発するつもりだ!!」
のび太「ええっ、なんとかしろよ!!」
ドラえもん「な、なんとかって言われても……!?」
ドラえもんは必死にポケットを漁り出す。
ドラえもん「『ナゲーなげなわ』!! ハイヤーッ!」
ドラえもんはカウボーイのようにエルザの島に向かって投げ縄を放つと、縄の輪は一気に島の広さまで広がり、島を包むように引っかかった。急いでドラえもんは近くの岩石に括り付ける。
ビィン! と、縄は張り詰めて、エルザの島は止まった。
ドラえもん「ただの縄じゃ無いから切れないとは思うけど……」
のび太「ど、どうする!?」
リキ「おい、人間達よ!!」
リキは島の岬に立って、こちらを見ていた。
リキ「我々を行かせないようにしているようだが、この島は既に火薬燃料に点火されている! もう止めることは出来ない!!」
ドラえもん「ううっ!?」
リキ「だが、時間の猶予がある!」
ドラえもん「えっ?」
リキ「このまま我々を繋ぎ止めようとするなら、お前達に総攻撃をかける! この縄を解くのなら、お前達には手を出さない! 翌朝までに答えを出せ!」
ジャイアン「ふざけんな! 今すぐそっちに行ってぶん殴ってやる!」
リキ「今すぐ爆破させることも出来る! もちろん、お前達も巻き込むことになるだろう!!」
ジャイアン「く、くそっ!」
リキ「時間はある。よく考えるんだな……」
そう言い残し、リキは島の奥へと姿を消した。

⑧ 悩める楽園の島
暮れなずむ草原の中で、のび太と静香はお医者さんカバンでのび太達に倒された猛獣達を治療していた。包帯を巻かれた猛獣達は、風が流れる草の上で静かに横になっていた。
ドラえもんとスネ夫とジャイアンはたき火を囲みながら今後について話をしていた。虚ろな目をしたエルザはずっとドラえもんの近くに付いているようだが、自分からドラえもん達に話しかけることはなかった。
スネ夫「この島のみんなが逃げればいいんだよ。ヤツらに爆破される前にさ!」
ドラえもん「あいにくだけど、どこでもドアが無い今、ここの動物達を移す手段が無い」
ジャイアン「だからよ! 俺たちがタケコプターで侵入して暴れ回ればいいんだ! このスーパージャイアン様に任しとけ! ウホッウホーーッ!」
興奮したジャイアンはゴリラのように自分の胸を叩いた。
ジャイアン「ウ!? ウーーッ……」
しかし、顔が真っ青になり、倒れてしまった。
ドラえもん「あーあ、スーパー手袋を着けて自分の胸を叩くから……」
スネ夫「頭はスーパーバカだったみたいね」
そして、項垂れるように座っているエルザに視線が集まる。
ドラえもん「リキはずっと前から悩んでたんだ。人間に復讐したいけど、人間の君だけは守りたいってね」
エルザ「そんなはず、ないわ……」
エルザはぽつぽつと、自分のことを語り出した。
エルザ「今からちょうど100年前の1912年、私は母親に捨てられたの、この大好きだった笛だけ持たされてね」
ドラえもん「…………」
エルザ「そして、貴族のペットだったニホンオオカミのリキと出会った」
エルザ「リキは死にかけていたけど、私が笛を吹くと、リキはみるみるうちにケガが治って、元気になった。そして私たちは、あの島に辿り着いたの」
エルザ「私たちは復讐を誓ったの! 私とリキを捨てた人間に! 復讐の為に奇跡が起きたのよ!!」
スネ夫「そ、そんな……」
エルザ「神様は私に復讐するように奇跡を授けてくれたのに、リキは、何でひとりで……」
ドラえもん「それはどうかな?」
エルザ「何よ!?」
エルザはドラえもんを睨み付ける。
ドラえもん「きみの奇跡は、復讐の心が生んだと思っているみたいだけど、ぼくは違うと思うな」
エルザ「ど、どういうこと……?」
ドラえもん「きみが人間を許せる時が来たら、きっとわかるよ」
エルザ「……」
拗ねるようにエルザはドラえもんに背を向ける。
その様子を後ろから見守るドラえもんが、優しく微笑んでいた。

満天の星空の下で、たき火を囲み、ドラえもん達は夕食を食べていた。クリームスープ、そしてフランスパンをモアやドードー達も一緒に食べる。
ジャイアン「うめえ!」
スネ夫「うん、うまい!」
ドラえもん「グルメテーブルがけでいくらでも用意出来るから、たくさん食べてよ」
のび太「ねえ、パンにメンチカツ挟むとおいしいよ!」
ジャイアン「ンマーイ!」
静香はスープをエルザに差し出す。
静香「さ、食べたら?」
エルザ「……」
エルザは仕方なしとばかりに口にスープを運ぶ。
静香「おいしい?」
エルザ「……まあまあ」
静香はニコニコしていた。
スネ夫「それにしても、君は本当に100年も子供のままなの?」
エルザ「そうね」
スネ夫「きっとネオテニーになっているんだよ!」
エルザ「?」
のび太「ネオテニーって何さ?」
スネ夫「えっとだね、人はサルから進化したって言われてるだろ?」
のび太「うんうん」
スネ夫「でも、今の人間って頭蓋骨とかがサルの子供の形に似ているんだ。つまりサルが子供の姿のまま人間へと成長したって説があるんだ。こういう現象をネオテニーという」
のび太「へー。まるでピーター・パンみたい」
のび太の言葉に一同は笑う。
静香「そうね。もしかして、エルザが大人にならないのは子供のままでいたいからじゃない?」
エルザ「そ、そんなんじゃないわ! 私は自分を捨てた親のような大人になりたくないだけよ!」
のび太「なんだ。ますますピーター・パンと一緒だ」
一同は更に笑う。
エルザ「違うってのに……」
のび太「まあ、ぼくにもその気持ちはわかるよ。大人になったら、口うるさいママやケチなパパみたいにはなりたくないね!」
ジャイアン「そうだそうだ。おれだって、やかましいかあちゃんみたいになりたくないっつうの!」
スネ夫「たまには家出したくなったり……」
静香「どこか遠くへ行きたくなることだってあるもの」
エルザ「……」
のび太「でも、エルザは凄いと思うよ。100年間も人に頼らず生きているんだから」
エルザ「私には、リキがいたんだもの。だけど……」
今の自分はリキにも見捨てられた、とエルザは軽く頭を抱える。
そんなエルザの肩にドラえもんが手を乗せる。
ドラえもん「これからは、ぼくが君を助けてあげるよ」
エルザ「えっ?」
エルザは驚いたように顔を上げる。
ドラえもん「ぼくは、リキに君のことを任せられたと思ってる。君が無事に人間の社会へと戻れるようにってね」
エルザ「社会に戻るだなんて……」
ドラえもん「君なら、絶対大丈夫だよ」
のび太達も同意するように頷くが、エルザはそれを拒否するように顔を横に振る。
エルザ「……でも、私を捨てた人間を、許すことなんて出来ない!」
エルザは、何処かに駆けて行った。
のび太「エルザ!」
ドラえもん「少し、ひとりにしてあげよう」
のび太達は、エルザの後ろ姿をただ無言で見守るしか無かった。

エルザはのび太と静香が手当てした動物達がいる草原へと来ていた。
横たわる猛獣達は、穏やかにエルザを見つめていた。
エルザ「もう、あの人間達を許してしまったの? 傷つけられたのに、優しくされたら許すなんてね。もう復讐も止めてしまうつもり?」
猛獣達は、頷くように頭を軽く下げた。
エルザ「人間なんて、そんな良いものじゃないのよ。私は人間に捨てられたのに……」
エルザは言えば言うほど虚しくなる。
エルザ「知ってたわ。私自身も人間だって。私はリキにも捨てられたってことくらい!」
エルザ「リキは私に生きて欲しいって願っていることくらい、知ってたわ!」
エルザ「でも、私が、リキから離れたくなかったことだって、あなたも知ってたはずなのに!!」
彼方に見えるリキの島に向かってエルザは叫んだ。
エルザの声は虚しく木霊するだけで、何の返答も無い。
エルザは笛を取り出す。
エルザは笛を吹く。哀愁を帯びた笛の音が、島全体に響き渡る。
たき火を囲みながら、作戦会議をしていたドラえもんとジャイアンとスネ夫は、その笛の音に耳を傾けていた。
のび太はモアとドードーに囲まれながら、笛の音に誘われるように眠りについた。
静香は星空を見上げながら、澄んだ目を潤ませていた。
リキは彼方に見える楽園島を見つめていた。聞こえないはずの笛の音を、何故か聞こえているかのように、耳を澄ませていた。
リキはエルザとこれまでの日々を思い出していた。
今から100年前にエルザに出会った日、エルザと共に海に浮かぶこの島を見つけた日、笛の音を聞く度に徐々に大きくなる自分の体と成長しないエルザ。
リキ「100年間、あの子はただの一度も涙も見せなかった」
リキ「だが、もういいんだエルザ」
笛を吹き終わったエルザの顔に、涙が伝っていた。
リキ「本当に、済まなかった」

⑨青の楽園VS赤の旅団

暁の光が2つの島を染める。
海岸線にドラえもん達5人は彼方に見えるリキの島を見つめていた。
ドラえもん「人間の世界へあの島を向かわせるわけにはいかない」
のび太「リキを止めるしかない!」
スネ夫「ぼくたち5人だけでなんとかなるかなあ?」
ジャイアン「やるしかねえだろ!」
静香「爆発する前にあの島にいる動物達を移せればいいけど……」
ドラえもん「発火しているポイントはわかっている。そこまでぼくらは一直線で突入する!」
ドラえもんは既に用意された道路光線のスイッチを入れる。道路光線は通常より大分大きい。
ドラえもん「このビックライトで大きくした道路光線。これが突入経路と同時に避難経路でもあるわけだ。アホウドリは勝手に逃げてくれると思うけど、オオカミ達は爆発するまで逃げてくれないはずだ」
ジャイアン「力づくでなんとかするってことだな!」
ドラえもん「そのとおり。特にリキ。彼を降参させる他に、道は無い」
のび太はパワー手袋といなずまソックス、ジャイアンはスーパー手袋を装着する。
その背後の森林から、モアとドードーが飛び出してきた。
モア「ギャアン!」
のび太「モア君、ドードー君!」
モアとドードーは鼻息を荒くして、リキの島を力強い瞳で見つめている。
のび太「君たちも戦うって?」
モアとドードーはそれに応えるように、咆哮する。
ジャイアン「よーし、やったろうじゃねえか!」
エルザ「私も行くわ」
森林の影からエルザが現れた。
静香「エルザ……」
エルザ「リキを死なせたくないわ。そして……」
森林が大きく揺れる。地響きが近付いてくる。
そして、現れたのは、昨日のび太達に叩きのめされた猛獣達だった。
エルザ「彼らも、リキを止めたいって思ってるようだから」
ドラえもんは頷く。
ドラえもん「うん、一緒に行こう!」
モアの背に競馬の優勝馬のように楽園の旗が着けられる。モアにドラえもんとエルザが乗る。ジャイアンとスネ夫ははオーロックスに、静香はアラビアオリックスに。のび太はいなずまソックスで自分自身の足で走るようだ。

空は日の出を迎えた。ドラえもん達は道路光線の中へ一斉に並ぶ。
ドラえもん「全軍準備はいいか!?」
一同「オオッ!」
ドラえもん「行くぞー!」
全員一歩踏み出す。
ドラえもん「ジノシスドー! 全軍、突撃!!」
一同「オオオオッ!!」
ドラえもん達5人を先頭に、道路光線の中を一気に走る
リキの島から凄まじい数のアホウドリが真上に飛び立つのが見える。
ジャイアン「アホウドリが来るぞ!」
スネ夫「まるでカミナリ雲のようだよ!」
ドラえもん「みんな、手筈通りに行くぞ!!」
のび太、ジャイアン、スネ夫、静香「オーッ!」
ドラえもん達5人はタケコプターを使い、上空へと飛び立つ。その様子を見守るエルザ。
エルザ「一体どうするつもりかしら!?」
ドラえもん「みんな、空気クレヨンを持て!」
上空に飛んだ、ドラえもん達はポケットから「空気クレヨン」を持つ。
5人はクレヨンで空気に巨大な目玉の模様を描いていく。
そして、空気に巨大な目玉の絵が描き出された。
アホウドリ「ギャアギャア!」
その光景にアホウドリは恐がり、島から一斉に逃げ出してしまった。
ドラえもん「作戦大成功!」
ドラえもん達は喜びながら手を叩き合ったのち、道路光線の中へと戻る。唖然とするエルザと猛獣達。
エルザ「あなたたち、そんなことが出来るなんて……」
ドラえもん「だから言ったでしょ? ぼくに出来ないことはないんだ!」
ジャイアン「まだまだ行くぞー!」
ドラえもん達は再びリキの島へと走る。
リキの島の海岸線にはこちらに敵意を向けてオオカミ達が構えている。
スネ夫「オオカミたちがいっぱいだ!」
のび太「どうする!?」
ジャイアン「おれたちがなんとかする!」
スネ夫「えっ!?」
ジャイアンの言葉にスネ夫が青ざめる。
ジャイアン「猛獣さそいよせマントとひらりマントを貸せ!」
ドラえもん「はい!」
ジャイアンはマントを身に着ける。スネ夫にひらりマントを持たせる。
ジャイアン「おれたちがあのオオカミ達を引き寄せる! お前達はリキの元へ向かえ!! うおおっ!?」
スネ夫「うああっ!!」
さそい寄せマントを着たジャイアンを乗せていることで興奮しているオーロックスがオオカミ達に突っ込んでいく。
のび太「ジャイアーン」
ドラえもん「スネ夫ーっ」
ジャイアン「いいかー!? あとは任せたぞー!」
スネ夫「ヒエーッ!」
まるでロデオのように暴れ回るオーロックスにジャイアンとスネ夫は必死で捕まりながら、島の海岸線で大立ち回りを繰り広げる。オオカミ達はドラえもん達に目もくれずにジャイアン達に襲いかかっていく。
ドラえもん「がんばれよ! ジャイアン、スネ夫!!」
ドラえもん達は島へと上陸し、尚も走り続ける。

島は黒煙が覆い始めており、岩山には火山の噴火口のようなものが見える。
島の草原を駆け上る途中で更にオオカミ達が待ち受ける。
ドラえもん達は一度足を止める。
ドラえもん「まだあんなにいるなんて!」
ドードー「クアーッ」
のび太「えっ? 君がなんとかしたいの?」
ドードー「クアッ、クアッ!!」
その通りとばかりに頭を縦に振る。
のび太「でも君じゃオオカミに勝てるわけが……」
ドラえもん「いや、その心意気を買おう! 『ハッスルねじ巻き』!」
ドラえもんはハッスルねじ巻きを取り出し、ドードーにくっつけてねじを回す。
ドラえもん「このねじを巻かれたものは猛スピードで動き回る事が出来る! さあ行け!」
ドードー「クアーッ!」
目にも止まらぬ早さで、ドードーは単身オオカミの群れに突っ込んでいく。そして、まるでボールのようにオオカミ達は吹っ飛んでいく。
のび太「すごいすごい!」
ドラえもん「他の猛獣達も、ドードー君に加勢してあげて! ぼくらは、リキの元へ行こう!!」
ドラえもん達に付いていた猛獣達はドードーと共にオオカミ達に向かい、ドラえもん達はそのまま一直線に走り抜けてゆく。
黒い煙が濛々と立ち上る岩山が近付いてゆく。
エルザ「あの岩山を超えた先に、リキがいるわ!」
エルザがそう言った瞬間、空から二つの影が飛び降りてきた。
のび太「うわぁ!?」
その二つの影とは、バーバリライオンとカスピトラだった。飛び降りながら、バーバリライオンの爪がのび太に振り下ろされる! 鋭い爪を、のび太はパワー手袋で受け止めようとするが、手袋は切り裂かれてしまった。
のび太「くぅっ!」
のび太はトラに振り下ろされた爪の勢いで転げ回る。ケガはしていないが、手袋が使い物にならなくなってしまったことで絶望の顔へと変わる。
ドラえもん「の、のび太君!」
突如、静香が叫ぶ。
静香「ドラちゃん!」
ドラえもん「えっ?」
のび太は岩山を背後に、唾を垂らしたバーバリライオンとカスピトラに囲まれ、汗だくになりながら思わず目を閉じる。
静香「パオーン!」
次の瞬間、バーバリライオンとカスピトラは空高く投げ飛ばされていた。
のび太「えっ!?」
その背後に立つのは、口が象の鼻のように変化した静香だった。鼻で吸い寄せて、空高く投げ飛ばしたのだ。
静香「『ゾウ印口べに』!」
上空から地面に叩きつけられたバーバリライオンとカスピトラは目を回しながらも、更に襲いかかろうとするが、静香の口から伸びた象の鼻でバシーンと殴られてしまった。
静香「象の力は凄いのよ!」
のび太「す、すごいや、静香ちゃん」
ドラえもん「さあ、リキの元へ向かおう!!」
モアに乗った、ドラえもん、エルザ、アラビアオリックスに乗ったのび太と静香は岩山を駆け上る。

やがて見えてきたのは、岩肌の地面が隕石の衝突によって大きく陥没したような光景、アリゾナの大隕石孔に近い光景が広がっていた。直径は100メートル前後。その更に向こう側には火山のように火を吹きながら小爆発を繰り返している。
その噴火している目の前に、リキが居た。
エルザ「リキ……!」
リキ「来たか……!」
ドラえもん達はリキに駆け寄る。
エルザ「……」
エルザはリキに何か言葉を掛けたいのだが、言葉が見つからないようだ。
ドラえもん「リキ、あの噴火を止めてくれ!」
リキ「出来ない。まもなく、この島は爆発する……」
のび太「なら、早くこの島から脱出して! ぼくの楽園島まで急いで!」
リキ「私は逃げない。お前達こそ縄を切断して、ここから脱出しろ!」
のび太「そしたらリキは島を移動させるんだろ! 人間の所で爆発させる為に……!」
リキ「そうだ。人間の復讐こそ、100年間の想いだ!」
のび太「みんなに生きて欲しい! これがぼくの想いだ!」
睨み合いながら対峙する、のび太とリキ。
リキ「……お前だそうだな。楽園の島を作ろうと言い出したのは」
のび太「ああ!」
リキ「ならば、試すか? どちらの想いが強いのか」
のび太は、切り刻まれた手袋をリキの足下に投げつける。リキの口元がつり上がる。
リキ「……面白い! 決闘だ!」

⑩ のび太とリキの決闘
ドラえもん、静香、モア、エルザ、そして遅れてきたジャイアンとスネ夫とドードーは絶壁の上で、隕石孔の中心で対峙するのび太とリキを固唾を呑んで見守る。
のび太「ドラえもん、あいこグローブ!」
ドラえもん「うん!」
ドラえもんはグローブをのび太に向かって投げつける。のび太はグローブを装着する。
スネ夫「あいこグローブって?」
ドラえもん「相手の実力と同じになるグローブだよ。想いの強い方が勝つ!」
いつの間にか、崖の上には遅れてやってきた絶滅動物達でいっぱいになっていた。
グローブを装着し、のび太は構える。
のび太「人間の想いで……」
リキ「復讐の執念で……」

のび太・リキ「お前に、勝つ!!」

猛獣達「ウオオオオッ!!」
のび太がリキに走り出すと同時に、ギャラリー達の咆哮が轟く。
のび太「えいっ!」
のび太のアッパーがリキの顔面にヒット、リキの顎が跳ね上がる。
リキ「フン!」
リキは平手打ちのように前足を振り回し、それを喰らったのび太はきりもみ回転で吹っ飛ばされる。
のび太「くう……っ、ハッ!?」
気がつけば、目前までリキの牙が迫っていた。
のび太「くっ!」
のび太はリキの口を必死に抑え、なんとかその場から逃げる。
リキ「ウオオッ!!」
のび太「やああっ!!」
のび太がリキを殴り、リキはのび太を殴る。両者一歩も引かぬ、壮絶な殴り合いが繰り広げられる!
ドラえもん達「のび太ああああああ!!」
猛獣達「ウオオオオオオオオオオオ!!」
二人の死闘にギャラリー達は狂熱的に声を張り上げる!
リキ「フンッ!!」
突如、リキは頭を向けて突進してきた。
のび太「ぐわああっ!!」
リキの頭突きをモロに喰らい、のび太は吹っ飛んで岩肌に叩きつけられる。
のび太「くっ……うっ……」
のび太はそのまま白目を剥いて倒れた。
ドラえもん達「の、のび太ああああああっ!!」
リキ「……フ、フハハハ! もう誰も私を止められない!」
エルザ「リキ……! もう、止めて……!」
ドラえもん「のび太くん……!」
ドラえもん達の間に絶望した空気が漂う。
だが。倒れたのび太の手が、かすかに動いた。
リキの笑い声が止まる。
のび太はゆっくりと立ち上がる。
のび太「死なせないよ……誰も……」
ドラえもん「のび太くん……!」
のび太「……だって、ぼくは、人間にいじめられてた君たちの気持ちが、わかるから……」
リキ「……」
のび太「ぼくが一番、知ってるから、さ」
のび太は、ボロボロになりながらも笑ってみせた。
エルザ「……どうして!? 降参してよ! あなた死ぬわよ!」
のび太「エルザ。最後まで諦められないよ」
エルザ「……」
のび太「だって、君も、リキも、ここにいるみんなが、ぼくの大切な、友達なんだから!!」
のび太は最後の力を振り絞って、リキに向かって走り出す!
エルザ「のび太くん!!」
ドラえもん達「のび太!!」
のび太「うらぁっ!!」
リキ「ウオオッ!!」
のび太とリキの振り回した拳が激突する!
リキ「ぐああっ!」
リキの手が、跳ね上がる!
ドラえもん達「今だ!!」
のび太「うおおおっ!!」
のび太のアッパーが、リキの顎を下から殴り上げ、リキの体は派手に宙へ吹き飛び、そして倒れた。
シン……と場は静まりかえる。
リキは倒れたまま、爽やかな微笑を浮かべながら、呟いた。
リキ「私の、負け、だ」
ドラえもん「や、やった……?」
ジャイアン「勝った……」
のび太「勝った!」
のび太「勝ったぞおおおっ!!」
ドラえもん達「のび太あああああ!!」
勝者を讃えるように観客からは、再び凄まじい咆哮が轟いた。
ドラえもん「ハッ、喜んでいる場合じゃない!! 全員、この島から脱出ー!!」
一目散に道路光線を使って動物達が逃げてゆく。
ドラえもん「動けなくなった動物はゾウ印口べにで運んであげて!」
のび太「リキはぼくが運ぶよ!」
エルザ「のび太くん……」
のび太「エルザ、ぼくは君に負けないくらいの奇跡を起こせたかな?」
エルザ「……ええ!」
ドラえもん「さあ、急ごう!!」
ドラえもん達はタケコプターでゾウの鼻を使いながら、動けなくなった猛獣達を運ぶ。ジャイアンだけはスーパー手袋で、何十匹ものオオカミを一度に運んでゆく。
楽園の島の海岸でドラえもん達は動物達を手から下ろした。
『ナゲーなげなわ』は外され、その後に『ゴーゴーカザグルマ』を取り付けられたリキの島は楽園島から猛スピードで離れていく。
やがて巨大な轟音を立てて、リキの島は爆発し、沈んだ。

⑪ エピローグ
ドラえもん達と絶滅動物達は楽園島の海岸に集っていた。
その人混みから少し離れて、のび太とエルザは話をしていた。
エルザ「あなたのおかげで、私の奇跡の正体がわかったわ」
のび太「えっ?」
エルザ「奇跡って、人間の優しい想いが起こすものなのね。笛の力は私の復讐の願いじゃない。ママだったのよ」
のび太「……」
エルザ「ママは私を捨てたけど、最後にこの笛を持たせてくれた。これはね、母親としての最後の愛情だったのよ」
エルザ「たったそれだけの愛情だったけど、ママの優しい想いは私に奇跡を授けてくれてたんだわ」
エルザは軽く笑った。
のび太「きみは、自分を捨てたママを許せるかい?」
エルザ「ええ。私は100年間も、ママの愛情に甘えることが出来たから」
のび太「エルザ……」

ドラえもん「リキ、ありがとう」
ドラえもんはリキにそっと耳打ちする。
ドラえもん「君はわざとのび太くんに負けてくれたんでしょ?」
リキ「……バカを言うな。私はあの少年の想いに負けた。それだけだ」
ドラえもん「それなら、いいんだ」
リキ「エルザを頼む」
ドラえもん「わかってる」

別れの時間がやって来た。一同は海岸に並ぶ。
のび太「モア君、ドードー君、また会いに来るからね!」
モア「ギャン……」
ドードー「クアーッ」
モアとドードーは寂しげだった。のび太は2匹の頭を優しく撫でる。
エルザ「リキ、100年間。ありがとう……」
エルザは、何処かぶっきらぼうにリキに言った。
リキ「ああ。私も100年間、楽しかったよ」
エルザ「それじゃ……」
エルザはそのまま振り返り平然を装うとするが。
エルザ「……う、ううっ。リ、リキぃ……っ」
エルザは自分の体が、リキの方へ振り向こうとするのを抑えるのがやっとだった。
エルザは一度顔を拭う。そしてそのまま、今度は自分の精一杯の愛情を込めて言った。
エルザ「リキ、本当にありがとう!」
リキ「うん」

ドラえもん達5人とエルザは、日本へ向けてタケコプターで飛ぶ。

リキは叫んだ。
リキ「子供達よ! お前達の世界が、100年後には楽園になっていることを願っているぞ!」

子供達は、空気クレヨンで大空に「まかせて!」と描き、彼方へと飛び立っていった。

<映画ドラえもん のび太と楽園の守護者 おわり>

(400文字換算 108枚)

作者の解説ページ

作者のあとがき



ここは「2012年映画ドラえもんを勝手に自作するブログ http://blog.livedoor.jp/doraeiga2012/」の情報をまとめるサイトです。
公式ドラえもん関係各社とは何の関係もありません。


※こどものかたへ!
このサイトはニセモノだよ! テレビでやってるドラえもんや、らいねんのえいがでこうかいされる「のび太と奇跡の島」とはなにもかんけいないよ!